夜の勤行



夜の勤行

タイアゲが無事終わって、僧侶達は夜の勤行のために講堂へと上がっていく。

午後8時丁度に夜の勤行が始まった。
差定の伽陀から錫杖までは、主として座上での読経である。米華からは立役(たちやく)となる。担当導師は院主の他は決まっているわけではなく、重要な差定いくつかを長老の僧が担当する程度のしきたりと聞く。立役では、入れ替わり立ち替わり、各僧侶が交代で所作していた。

正面の薬師如来座像に向かって僧侶が二列に並び向かい、向かって左手に楽師、右手に世話役が並ぶ。参詣者は講堂の中で、僧や楽師、世話役をとり囲う様に座って見守る。


僧侶達が講堂に上がる、夜の勤行が始まる


伽陀(がだ)(または、偈頌:げだ・げじゅ)から序音までの問には、法華懺法(ほっけせんぽう)を修して六根の罪(六根:眼耳鼻舌身意の各根、即ち感覚等の働きによる罪、自我活動のこと。)を法華経を読誦して罪障を懺悔し、後生善所を願う法要。天台宗の重要な儀式である。

仏名では賢劫の千仏の御名を読誦し拝する。仏名経導師が仏名を読む間に、ほかの僧侶や役付の人々に対して、ねむけさましの夜食が出される。
僧侶からお裾分けを頂く者もいたが、私にはまわって来なかった。

話によれば、胡椒入りの味噌をつけた小餅を炙り焼き、これを数個(3個)ずつ竹串に刺したもので、目覚ましとして配られる。


初夜(しょや)、初夜導師(文殊仙寺住職)が登壇し、五穀成就、蚕養如意、国家安康を祈念する。

仏前に牛王宝印(智)・御鏡(仁)・三杖(勇)を供え、般若心経・観音経・文珠経・普賢経・薬師経・斎ノ花などに関する咒文を唱え、こうした真言秘密の法によって三徳を顕わし、年々歳々の五穀成就・蚕養如意・七珍万宝を十方一切衆生に与え給えと祈念する。

智・仁・勇とは、智=知識・知恵・論理・道理、仁=人情・愛情・情緒・情熱、勇=勇気・意志・意欲・忍耐をあらわす。


役付


法咒師(ほずし)、2名の法咒師(大聖寺住職・成仏寺住職)が右手に鈴、左手に香水棒と大刀を持って念仏や読経をし、天衆地類の来影向を祈る。


和歌森 太郎編 くにさきによれば、法咒師(ほずし)」ではホズシノタイに火を入れ、2名の法咒師が剣・鈴・香水棒等を持って仏を礼拝し、着座・浄三業・普礼(ふらい)・礼仏・勧請・仏部・蓮華部・金剛部等の真言28を唱えて、天衆地類の来影向を祈る。


とあるが、ホズシノタイに火をいれるのを見る事は出来なかった。


法咒師の様子



神分(じんぶん)、王城鎮守の八幡三所をはじめとして、賀茂・春日・松尾・稲荷・祇園・北野・住吉などの請大神、日吉・熊野の大権現、鎮西の宗廟宇佐八幡大菩薩、豊後鎮守の諸大明神、六郷満山の六所権現等に対して威光増益のために神分経を読誦する。法会中の最も重要な行法と云われ、院主が神分導師を勤める。

また、神分の読経の間に、ほかの僧が三十二相以下、唄匿(ばいのく)・散華(さんげ)・梵音(ぼんのん)・錫杖(しゃくじょう)の四箇法要と、縁起目録を勤める。

神分の時に、後に使用される鬼の面が壇上に飾られ、笛・太鼓・鉦の神分ばやしが、ひとしお賑やかに奏せられる。
この頃、荒鬼になる僧2人は鬼の岩屋で荒鬼の仕度 オニカラゲ をする。


ホラ貝を吹き鳴らす東光寺住職


三十二相(さんじゆうにそう)、僧全員によって例事作法の中の讃歎門(仏の徳をほめたたえること)を読誦する。

唄匿(ばいのく)、四箇法要に則して行われる声明。声明の曲種の一。歌詞は偈頌(げじゆ)の類。

散華(さんげ)、四箇法要に則して行われる声明。全員で悪鬼を退ける言葉を唱和しながら花を撒く。

梵音(ぼんのん)、四箇法要に則して行われる声明で、三宝を供養する言葉を唱える。


囃子(笛)


縁起(えんぎ)、導師が仁聞菩薩による六郷満山開基の縁起を述べる。

目録では、六郷満山の霊窟にまします仏・菩薩・諸天・善神に対して奉供する目録を読誦し、心経3巻・御明千燈・大餅5枚・斎ノ花3升を供え奉る。

錫杖(しやくじょう) 錫杖師が下座で声明を行う。お経を唱和し、各節の終わりに錫杖を振る。

錫杖まで坐っての読経を終り、僧侶は法衣をぬいで軽装に変え、やがて立役に移るが、この問ハヤシが続けられる。


錫杖の様子



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